海洋深層水利用で盛り上がる富山県

北陸地域では、伝統技術を強みに健康業界で活躍する企業が多い。
大学などアカデミアの層も厚く、産学官連携による地域特産品を活用した健康食品や化粧品の開発も盛んに行われている。

 

その中で、富山県では健康・美容分野から再生医療や介護分野での活用まで広がりを見せる富山湾の海洋深層水が注目である。

 

◆富山湾の海洋深層水
180925_ss01.jpgのサムネール画像
 

 

富山県では、地域特産物を用いた商品開発も活発で、
その代表格が富山湾の海洋深層水だ。

 

富山湾は、大きく分けて三つの層で構成され、
(1)海岸に近いところには河川などの影響を受けた塩分濃度の低い「沿岸表層水」
(2)の 下 層 から2 0 0 ~ 3 0 0メートル 付 近 には「対馬暖流系水」

(3)300メートル以深には低温の「日本海固有水」が大量に存在し、
これが「深層水」と呼ばれ、富山
の容積の約6割を占めている。

 

 

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海面付近の表層水の水温が8~30℃と季節によって大幅に変動するのに対し、
富山湾の深層水は1年を通して2℃前後の低温で安定しており、太平洋側の海洋深層水
より約10℃低いという特徴がある。

 

海洋深層水は表層水に比べて、一般生菌数が100分の1程度と少なく、細菌学的に
見た清浄性が保たれているという清浄性という特徴があるのを利用し、世界初の深層水を活用した牡蠣の浄化・畜養や、これも全国初のあわびの養殖が行われている。

 

◆富山県の海洋深層水

 

滑川海洋深層水 平成17年1月から滑川海洋深層水分水施設(愛称:アクアポケット)で深層水原水に加え5種類の機能水を分水している。

 

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1.濃縮水成分が濃縮された深層水(逆浸透膜方式[RO])塩濃度約5%
2.高濃縮水成分が高濃縮された深層水([RO])塩濃度約15%
3.脱塩水含有成分がほとんど除去された脱塩深層水([RO])
4.塩水 塩化ナトリウム(食塩)を中心に濃縮された深層水
(電気透析方式[ED])
5.ミネラル脱塩水 カルシウム,マグネシウムなどの深層水の成分が濃縮された
脱塩深層水([ED])

 

・・・となっている。

 

もう一つは入善海洋深層水

 

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1.海洋深層水原水(取水したままの海洋深層水)
2.脱塩海洋深層水
3.濃縮海洋深層水(約1.5倍に濃縮された海洋深層水)

 

・・・の3種類を分水している。
◆富山県の海洋深層水商品開発

 

富山県深層水協議会を中心に県内の大学や公設試験研究機関、民間企業との産学官連携により、深層水の機能性研究や応用商品も開発が盛んだ。

 

平成12年には、深層水を利用した商品開発を富山県も推奨し、商工企画課には深層水協議会の事務局が置かれ、自治体や企業間の調整が図られた。海洋深層水を活用した商品開発を支援する制度が新世紀産業機構にあり、新産業創出公募事業に申請、同事業の深層水枠で採択され、商品化される商品もある。
◆五洲薬品の取り組み

 

なかでも同協議会主要メンバーの五洲薬品は、深層水研究を通じて食卓塩や飲料水、経口補水液、トロミ食品、バスソルトなど、医療・介護、健康・美容分野で様々な商品を開発している。

 

五洲薬品は、1996年に富山県と海洋深層水産学官連携研究を開始し、2000年に、日本ではじめて海洋深層水の多段式海水分離技術の実用化に成功した。

 

イオン交換透析装置
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富山湾沖水深300m以深から汲み上げた海洋深層水を2000年に開発した多段式イオン交換電気透析装置によって脱塩し、さらにミネラルを濃縮し、逆浸透膜では、濃縮水(塩分・ミネラル分)と淡水(脱塩水)の2つに分離するのに対して、多段式イオン交換電気透析装置では濃塩水、ミネラル濃縮水(塩素・ナトリウム・カリウム等の過剰成分が除去された有用ミネラル)、淡水(脱塩水)の3つに分離することが可能なため、この方法で処理することによって、過剰に含まれていた塩分を分離し、深層水の特徴でもある豊富なミネラルを失うことなく利用することができるとしている。

 

2004年 海洋深層水を用いた初の特定保健用食品の表示許可取得。

 

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その他、医療用としての活用を積極的に進めている。

 

移植用臓器保存液の研究

 

平成19年に病理組織診断や臓器移植の保存液に海洋深層水が使えないかという研究を富山大学とともに行い、従来、病理診断の細胞保存には体液に近い浸透圧に調整した精製水に0.9%の食塩を溶かした生理食塩水を基にしたものを使用していたが、 海洋深層水から等張液という保存液を作った。等張とは体液に等しい浸透圧のこと。 臓器移植の際に、臓器を生理食塩水に保存すると早期に細胞が崩れてしまうのが一般的であったが、 開発した等張液に入れると15日以上細胞が存命できることが判明。生理食塩水にはない、海洋深層水のミネラル等の成分が、効果的なのではないかということが分かり始め、 さらに、平成19年8月に経産省の「地域資源活用型研究開発事業」に採択され、「海洋深層水分離加工技術より製した分離水による創傷ケア製品開発」の事業として、 海洋深層水分離加工技術を利用した創傷ケア製品の開発を、五洲薬品が管理法人となり、 富山大学、鹿児島大学、和歌山県立医科大学、浜松医科大学、富山市民病院、福祉村病院と連携して行った。 病院等で患者の傷口等を洗う際、通常は生理食塩水を使用していたが、それを等張液に代えて、試すと、生理食塩水とは異なり、しみないだけではなく、傷口が早期に治ることが分かってきて、海洋深層水の何の成分が、傷口の再生に効いているのかを調べるため、 ミネラル以外にも微量含まれる有機成分を調べたところ、海洋深層水にはアミノ酸の一種、「GABA」が含まれていることも判明。 海洋深層水は、我々の血液、体液と近い成分が自然と備わっており、この等張液の効果は恒常性維持能(ホメオスタシス維持能)として発揮されていたことが判ってきた。

 

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再生医療への取り組み
『再生医療研究による富山湾海洋深層水等張液を利用した研究用細胞培養液開発および高機能性化粧品開発』が「平成27年度戦略的基盤技術高度化支援事業(サポイン事業)」に採択されて、注目を浴びている。

 

深層水由来のアミノ酸の製造・製品化特許取得
これまで、海洋深層水に含まれる豊富なミネラルについては、その有用性が研究、活用されてきたが、アミノ酸に関してはほとんど注目されてなかった。そのアミノ酸、特にストレスの多い現代人にとって有効といわれるGABAなどに注目し、その製造と製品への応用についての特許を取得。

 

皮膚科クリニックと共同開発
深層水の濃縮ミネラル液を用いた皮膚バリア回復機能を検証し、深層水の皮膚への効果の基礎データを確認、その作用基準を考察し、得られたデータを用い皮膚科クリニックの医師と共同で、敏感肌の方のためのボディケア商品を開発。

 

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これは、深層水の濃縮ミネラル液を用いた皮膚バリア回復能を検証し、深層水の皮膚への効果の基礎データを確認、その作用機序を考察し、得られたデータを用い外用剤の開発を行うために富山医科薬科大学皮膚科ならびにセキひふ科クリニックの関院長とともに、その研究に乗り出したし、 皮膚科の医師や化粧品メーカーの間ではよく知られたことであるが、肌の弱い人には、脂質の一種であるセラミドが皮膚表面で不足している傾向を踏まえ、関氏らのアドバイスによって、深層水にはセラミドを増加させる働きがあるのではないかと調べてみると、細胞培養の実験においてそれが確認され、商品化に至っている。

 

五洲薬品と言えば浴用剤・・・

 

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そしてドリンク類・・・

 

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海洋深層水の活用は他地域でも取り組んでいるが、「薬の富山」のイメージが全国に定着していることから、医薬や健康分野を対象にした商品開発に力を注いでいて、富山県の地域特性を生かした商品開発を行うことが、他地域と競争には必要と考えているようである。

 

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富山の深層水を使った商品に用いられる、公認ブランドマーク。

 

今後も、富山県の海洋深層水の取り組みには注目である。
(経済産業省中部経済産業局 健康産業新聞 五洲薬品HPなど参照)
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