入善海洋深層水

準絶滅危惧種 サクラマス「完全養殖」を達成 近畿大と入善漁協




 入善漁協(入善町)と近畿大水産研究所富山実験場(射水市)は、入善町内の施設で孵化(ふか)して成長したサクラマスから採卵、孵化させることに10月に成功し、「完全養殖」を達成したと発表した。

サクラマスは富山名物のますずしの原料で有名。しかし、近年漁獲量が激減し、準絶滅危惧種に指定されている。近畿大は2011年からサクラマスの人工稚魚飼育に取り組み、今年10月に完全養殖に成功し、11月には完全養殖による稚魚が誕生した。

10月に孵化したサクラマスは、2020年春には1・2~1・5キロの出荷サイズに育つという事だ。

 サクラマスの完全養殖は16年、射水市が大門漁協、堀岡養殖漁協(いずれも射水市)との共同事業で成功したと発表した経緯がある。ただ、夏の成長期にサクラマスが好む15度以下の低水温の海水を大量に確保できないため、多数のサクラマスを成長させることに課題があったようである。

 入善町の海洋深層水活用施設では、水温が2度前後で安定している海洋深層水を利用することで、水温調節が可能になり、そこで、射水市の養殖事業に協力していた近畿大が、16年から入善漁協と完全養殖に向けた研究を進めていた。


サクラマスの完全養殖達成について説明する入善漁協の熊谷敬之主任(左)と近畿大水産研究所富山実験場の岩間達也成育員=2018年11月30日、富山県入善町下飯野

 入善漁協の熊谷敬之主任は「水温などの条件を変えることで魚の成熟をコントロールし、産卵期の肉質劣化を小さくする研究も来年から始めたい」と話している。


近畿大学水産研究所×入善町×入善漁協の共同プロジェクト


この富山湾海洋深層水でのサクラマス商用養殖試験のもともと、このプロジェクトには以下のポイント、概要、展開があった。

【本件のポイント】

●富山湾海洋深層水(日本海固有水)を利用した完全養殖サクラマスの商用養殖試験を開始する
●清浄性、富栄養性、低温安定性という海洋深層水の3つの特性を活かし、通年飼育や増産を目指す
●絶滅の恐れがある富山県を象徴する魚・サクラマスを産官学連携で養殖し、事業化する

【本件の概要】

 サクラマスは、富山県の名産品である鱒寿司の原料でもあり、富山県を象徴する魚であるが、準絶滅危惧種に指定されるなど、現在では漁獲量が激減している。近畿大学水産研究所富山実験場では、その現状を知り、平成23年(2011年)から海水でのサクラマス人工稚魚飼育に着手した。今年10月には完全養殖を達成するなど順調に研究を進めてきたが、このたび、入善町、入善漁協と連携し、入善海洋深層水パークにおいて、富山湾海洋深層水(日本海固有水)を利用した完全養殖サクラマスの商用養殖試験を実施し、海洋深層水の特性である、清浄性(水質がきれい)、富栄養性(ミネラルバランスが良い)、低温安定性(いつも冷たい)を活かして、冷水を好むため夏を越すことができないサクラマスの通年飼育や、事業化に向けた増産技術の確立を目指す。

【今後の展開】

 今後は、完全養殖のサイクルを確立するとともに、富山産サクラマスの増産を目指す。サクラマスの資源枯渇の影響で、現在、富山の名産品である鱒寿司は、県外産・海外産のサケ・マスの使用が主流となっているが、完全養殖サクラマスの増産によって、安全安心でおいしい富山産のサクラマスによる鱒寿司を復活させる。また、それを事業化し、特産品を生かした産官学連携による地方創生で地元に貢献する。

【富山実験場でのサクラマス研究】

 近畿大学水産研究所富山実験場は、平成3年(1991年)に開設された。富山湾の水深100m層の清冷な海水を使用して、サクラマスのほかマアナゴ、アユ、アワビなどの養殖研究に取り組んでいる。
 サクラマスの研究は、平成23年(2011年)から海水での人工稚魚飼育に着手し、約7カ月の飼育で食用サイズに成長させることに成功。天然魚に比べ年間を通して脂ののりが良いのが特徴で、平成24年(2012年)から出荷を開始した。今年10月には、近畿大学産人工親魚から採卵して完全養殖を達成している。

【入善海洋深層水パーク】

 入善海洋深層水パークは、平成13年(2001年)に開設された、入善町の施設である。水深384mから海洋深層水を取水しており、その取水能力は、100立方メートル/h(2,400立方メートル/日)。
 パーク内の深層水活用施設では、3種類の海洋深層水(原水・濃縮水・脱塩水)を給水することができるほか、海洋深層水関連商品や地元産品の販売、カフェ・休憩スペースや観光情報の提供、深層水を活用したさまざまな取り組みの紹介など、海洋深層水の利活用に関する事業を行っている。

実は、このプロジェクト以前に以下のような経緯があった。

協力 一転、別々の道に…

射水市や市内の漁協などが進めているサクラマスの養殖事業に絡み、近畿大水産研究所富山実験場(同市海竜町・新湊)の対応に市内の関係者が困惑。数年前から養殖事業に参加していた同実験場が「射水サクラマス市場化推進協議会」を除外されてからも独自に同様の養殖事業を展開していることに対し「モラルに欠ける」と声が上がり、その背景には、地元活性化を目指す協議会と、大学として成果をアピールしたい実験場との目的の差があったようだ。

 射水市では、市内の淡水と海水の二つの漁協やますずしメーカー、農家などが2006年1月に協議会をつくり、養殖と加工・販売を手掛ける6次産業化を目指していた。採卵と育成を一つの地域で繰り返す「完全循環型」のサクラマスの養殖は国内初となる。

 近畿大水産研究所富山実験場は協議会設立前から養殖事業に協力していたが、協議会のメンバーには名を連ねてはいなかった。サクラマスの販売方法などを巡っては市内の事業者とあつれきが生まれ、設立時に除外されたという。

 その後、独自に育てていたサクラマスを「近大サクラマス」と銘打ち、高岡市内のますずしメーカーと県産素材のみを使ったますずしを開発・販売。

さらに2016年11月末に入善町と共に養殖事業を始めることを発表した。

 協議会の幹部は「射水のノウハウを無断で使うのは許されない行為。ますずしの生産も協議会で進めていた事業」と。市幹部も「市から補助金を受けているにもかかわらず、地元のために事業を進めるという姿勢がない」と対応を疑問視していた。

夏野元志市長が「近畿大は自分たちで進めていくという思いを強くした上で行動で、射水は関係機関と連携して技術を積み重ね、消費者から求められるものにしたい」と答弁した。

 同実験場長を務める男性教授は「協議会から除外されたことで研究継続が不可能になり、共同で事業を進める団体を探した」と経緯を説明。養殖のノウハウについては研究機関として独自に進めてきたとして「それまでの研究成果を放棄するわけにはいかない」と強調。

 さらに「日本海側唯一の近畿大の研究機関として成果をアピールし、入学希望者増につなげることも大切な役割の一つ」と語り、実験場の立場を協議会に理解してもらえなかったとした。

朝日新聞デジタル 転載
北日本新聞 Webum 転載

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